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 セライケラ・チョウ仮面舞踊
 セライケラのチョウは、インドを代表する仮面舞踊の一つで、その幽玄とも言える仕草には「能」に共通したものがあり、日本でも早くから注目されてきた。インド政府より文化使節として世界に派遣され、世界的に有名。
 セライケラはビハール州南端の町。この土地に長年君臨する王家によってチョウの踊りは庇護され、王家からも踊り手として訓練を受け活躍する人も出るなど、大変静かで洗練された形を保ちつつ今日まで伝承されてきた。
 毎年4月にシヴァ寺院で行われる両性具有のシヴァ神 (半男半女) に捧げて行われるセライケラの祭にはどんな村人も参加するが、その最後にこの踊りが行われる。モンスーンに入る直前に行われるこの祭は、米の豊作を祈願する豊饒儀礼的要素をたぶんに含み、踊り手は精進潔斎して祭に参加する。
 仮面舞踊チョウはパリ・カンダ (パリは守護、カンダは剣の意) と呼ばれるマーシャル・アートから生まれたと言われ、様式化されたステップや身体の動きには武術の基本が見て取れる。また手の構は攻撃あるいは防御に直ちに移れる位置にあり、防御や剣を使って行われるトレーニングから生まれたもの。
 チョウとは仮面という意味があり、今日まで伝承されてきた3つのチョウ (プルリア、セライケラ、マユルバンジ) の内2つ (セライケラとプルリア) が仮面舞踊である。
 仮面は粘土で原型を作り、その上に紙と布を粘土で幾重にも貼り付けて形を整え、乾燥させた後着色して仕上げる。セライケラの仮面には、ごてごてした飾りは一切つけない。踊り手は、顔をぴったり覆った仮面の、鼻の位置に開けられた小さな二個の穴で呼吸し、量目のところに開いている二個の小さな穴を通してのみ外界と接する。踊り手の視界は極度に限定され、容易に非日常の世界へと現実が変わって、神と一体の世界が出現する。
 演目は、神々を題材とするものの他、夜を象徴する「ラートゥリー」、「ナービク」(漁師とその妻が助け合いながら荒海を渡る姿を借りて、人生も平坦ではないが力をあわせれば乗り切ることができるといった内容)など、哲学的、抽象的なものが多い。上演時間は10分と短く、ソロかデュエットが多い。
踊りのスタイルは細心で力強いもので、リズミックな脚の動きは複雑なステップ、ジャンプ、素早い回転、滑るような歩きや異なった様々な歩きなど、その構成は振り付けと共によく考え出されたもので、大変印象深い。
 セライケラのチョウはこのような特徴を持ちながら、異なった踊りのグループの間で競い合われ、さらに踊りの技術に磨きがかけられている。

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↓2005年/仮面舞踊セライケラのチョウ公演の記録↓