サシカラー・デーヴィーはゴダワリ・ダッタの妹。故ププル・ジャヤカル女史の姉妹のお手伝いさんをしていた。故ププル・ジャヤカル女史はミティラー画の育ての親(全インド手工芸局を作った人、あるいは世界でのインド祭を仕掛け、実行した人)。
サシカラーにはどちらかというと都会的なセンスが少し入っている。アリパンは床画で新しい牛糞に水を入れて布でおり(澱み)を取ったペースト状のものを、家(中央の広場を囲むように土壁の家が建てられている)の中の広場の土床に塗って大地を清める。一晩浸した米を石臼でつぶして指の先からたらしながら描いたり、布を絞るような形で描かれ、中央は神の座と呼ばれ、降臨してもらう神の象徴あるいはその姿を描く。他にも儀礼を執り行う家の中のゴサーインガルに描かれる。牛糞で直接描いたりする場合もあったりする。100以上の描き方や様々な儀礼の仕方がある。榊を立て神を降臨させるのと似ている。あるいは竹に神が降臨するという、神や魂が依る、アジアでよく見られる世界がここでは描かれる(デザイン)形をとる。
白は男性、赤は女性原理といい特に赤は交じり合うところ、結界に朱を入れる。そこで床絵は完成し、神は降臨して儀礼が終わる。時には神様の足跡が祠まで描かれる。周りには対の鳥や魚、亀や花など吉祥のシンボルが描かれ太陽や月も描かれることが多い。バナナが描かれたり鋤を描いたり、農耕儀礼の祈願がなされることもある。神が来たあとは水で中央が消され他のものが触れることで災いが来ることのないようにする。このような森羅万象を描いたものを曼荼羅ともいう。仏陀が生まれた頃も同じように描かれた床絵を考えると、このアリパンが一般的に日本でいわれる曼荼羅の原点ともいえる。
結婚した女性が毎日、未明な頃から家族の安寧の祈願のために何年も描かなければならないアリパンもある。そのことによって若い女性が母親としての自覚や強さを身に付けられると言われている。幼くみえる妻が厳寒期に冷たい水で沐浴し行なう儀礼は神とのかかわり、生きることの厳しい世界を感じさせる。より真剣なものに、といっても、出来ない時はサリーの端布に呪文を唱えて許してもらうこともある。こうした生活はそこに住む人でなければなかなか知ることは難しいのだろう。
この絵は日本に来たサシカラー・デーヴィーがコンクリートの擬似壁に竹の筆を使って描いたもの。中央に描かれているのは魚。魚はビシュヌ神の象徴でもある。竹の花が描かれたり、蓮の花が描かれている。
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