「2005年5月10日」

長谷川 時夫

 月見亭から見る景色は一言で言えば、かつて、「山、半分が影」と中国の禅僧が表現したような世界にある。池の雪は少しずつ溶け始めたが、ここから見える水は下に雪があるため薄いブルーだ。土があらわになった所では新緑の盛り、こごめがまだ大きくはないが始まっている。
 4月23日で地震発生以来6ヶ月、その間ほとんどが大池で復興の作業をしながら暮らしていたので、ここの森にやってきた36、7年前の生活の感が戻る。HP上で仙人テストを始めたが、毎日題を出し、答え、絵を描く。そんな想像的なことが限りなく出来る状態になっている。月もよく見ている。先日は月夜に池の向こう側の雪渓を生き物が走った。あまりに大きいのでそばに居たシルバーにも教えようとしたが、彼はわからなかった。狐にしては大きすぎて、だからと言って狼は絶滅したはずだし、しかし狐の大きさではない。春めいてきて、昨日見たウサギも茶色くなっていた。毎晩、車でシルバーの後を追いかける形で犬の散歩が始まる。シルバーも毎日行けるので、散歩から狩猟する群れの先頭を歩く犬になっているようだ。街の方へ行くことの感心も薄れ、先頭で生き物の動きを嗅いでいく。それが彼にとっての本来のようだ。いついくのかじっと待っている。夜になると出て行くというのは解ってきた。散歩ではなくなったので、何度でも行きたいようだ。夜の2時頃でも仙人テストの絵を描いていると、行こうと腕のところの服を引っ張ったり、うるさい。結局、もう一度同じコースを行くこともある。シルバーのおかげで森をよく見るようになる。
 山は日々、変わっていく。復興すべきとこはまだまだたくさんあり、これからというところだが、本来の美術館の仕事も少しずつ始まり、少し落ち着かなくなってきた。





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