「2004年6月」

長谷川 時夫



 大池の森が闇となるとき、カエルの音を聴く。電気を消すと池の魚が動く。目をつむると、頭の音がする。遠くに聞こえるカエルの音。そんなときに、近くのカエルの声にいつの間にか向かっている。和紙に墨を付けて線を描くように、その止まった筆の先と同じように、カエルの音のおわりが深い。スーっと深海に消え入るように、鳴く音に耳を傾けると、ここは、宇宙の森となる。
 色々な客人がやってきて、去っていく。5月はカタカリの、舞踊団が10人ほど。6月に入って、広報担当のインド大使館の外交官夫妻。
 

 私が30代前半に、村の雪の運動会、錆びたスキーを履いて、足を折ったために、雪の中で一つの絵本を描いた。
 ケーララ州のトリバンドラム経由でモルディヴに2度ほど、かにが一周できるような島に滞在したときにメモったノートをもとに創作した。
初めて書いた絵本で、「パッチュラ君と星の仙人」と題した作品。それを英訳してくれた人がいて、横長のとても大きな手作りの絵本が美術館の応接室に2冊おいてある。
 帰り際にその婦人が、それを読み始めて、時間がなかったにもかかわらず最後まで読まれた。「地球上の全ての魚が、美しい夜空の星を見に空を泳いでいったら、どのくらい海が沈むか?」その絵のところで、「ガンジス川の魚が全て、星を見に泳いでいったり、海の鯨や魚がすべて星を見に泳いでいったり」と付け加えて話すと、真剣に見て「この本は子供だけでなく大人にもいい。」と言われた。昼間の日常は、宇宙の森にいると言うことが実感として難しい事があるが、そのときの絵本はカエルの声のように無限への入り口となっていた。





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