「2003年6月」

長谷川 時夫

 天気予報で入梅になる3日前頃、美術館のグランドは鳥たちの歌でにぎやかだった。鴬が数日前から美しい音色で歌う。その内、他の鴬も呼応する。ある時、「ホー」と鳴いてから「ホヒホヒ」「ホヒホヒ」と短く音を切りながら止まらない。あれ?と思って聞いていると、そのまま続けている。いったい、どこで息をついているのかな?連続的な音だが息をつかない。腹式呼吸なのか?そんなふうに考えている間も続いている。やがて、止まった。その後は鳴かない。いったいどうなっていたのか。
 グランドでゴロっと横たわる。緑が増えていて、40?前後ぐらいの細い雑草の森がアマゾンの密林のように不思議に見え、風に揺らぐ。周りに植えてあるヒマラヤ杉の枝が風に軟体動物のようにそれぞれが揺れている。雨の後の緑の濃さが強く美しい。大気の暖かさも手頃で、草に横たわるには一番良い時。虫もさほど来ない。というより、昼のこの時間いない。
 今年の燕は美術館の玄関の巣から無事飛び立った。数日後、夜戻ってきて泊まり、またいなくなる。その後もやってきた。飛ぶことが出来たばかりの燕は人間がいても平気だ。生まれた時から人間がいるのだから当たり前だ。この5匹の燕から1羽だけがここに戻ってくるのか。
 ここに住んで31年目、初めてあんなに長い歌を聞かせた鴬は次に、いつ聞かせてくれるのか。セライケラの舞踊団が去った後、やっと自然の森に入った自分がいた。

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